精神的ストレスが関節炎を再燃させる仕組みを解明―神経・脂肪組織・関節をつなぐ新たな炎症経路を発見―
千葉大学大学院医学研究院の田中繁 助教、中島裕史 教授、同大同院整形外科学の大鳥精司 教授、総合病院国保旭中央病院アレルギー・膠原病内科の加々美新一郎 部長、国際医療福祉大学成田病院アレルギー・膠原病内科の廣瀬晃一 教授らの研究グループは、落ち着いていた関節炎が精神的ストレスによって悪化する仕組みを明らかにしました。本研究では、関節炎が寛解したマウスにストレスを与えるモデルを確立し、ストレスによる交感神経の活性化が、褐色脂肪組織(注1)からのIL-6(注2)産生を促し、IL-6が滑膜線維芽細胞(注3)を刺激してCXCL1(注4)を産生させることで、関節炎を再燃させることを見出しました。
本研究は、「なぜストレスによって関節リウマチが悪化するのか」という問題に対し、神経系、脂肪組織、関節組織を結ぶ新たな経路を示したものです。将来的には、ストレス応答経路を標的とした新しい治療法につながる可能性があります。
本研究成果は、2026年10月17日にScience Advancesに掲載されました。
(論文はこちら:10.1126/sciadv.aec9257)
■研究の背景
関節リウマチ(注5)は、関節に慢性的な炎症が生じ、痛みや腫れ、関節破壊を引き起こす自己免疫疾患です。近年は治療の進歩により、多くの患者で炎症を良好にコントロールできるようになりましたが、症状が落ち着いた後にも再燃することがあり、そのきっかけの一つとして精神的ストレスが知られています。しかし、ストレスがどのように関節炎を再燃させるのかは十分に分かっていませんでした。そこで本研究では、寛解した関節炎が精神的ストレスによって再燃するマウスモデルを作製し、その仕組みを解析しました。
■研究成果のポイント
• 一度関節炎が治まったマウスに精神的ストレスを加えると、再び関節炎が生じました。
• 交感神経の働きを抑えたり、褐色脂肪組織を除去したりすると再燃が軽減しました。また、ストレス後に増加するIL-6を阻害すると再燃が抑制され、IL-6の投与だけでも関節炎が再燃しました。
• FAP滑膜線維芽細胞はIL-6シグナルに必要なタンパク質であるgp130を発現し、滑膜線維芽細胞でgp130を欠損させると、ストレスによる関節炎再燃が抑制されました。
• IL-6刺激を受けた滑膜線維芽細胞は、好中球を呼び寄せるCXCL1を産生しました。
• 褐色脂肪組織の活性化に関わるβ3アドレナリン受容体(注6)を阻害すると、IL-6産生、CXCL1発現、好中球集積、関節炎の悪化が抑えられました。
• ヒトでも通常型のβ3アドレナリン受容体遺伝子を持つ患者では心理的ストレスと疾患活動性に相関がみられた一方、低反応型ではこの相関がみられず、マウスで明らかにした経路がヒトでも関与する可能性が示されました。
■今後の展望(研究者コメント)
今後、ストレスを起点とした関節炎悪化に対する介入治療法の詳細検討が必要です。また、組織炎症の記憶の正体をより詳細に突き止め、関節リウマチを真に改善させる治療法開発を目指します。
■用語解説
注1)褐色脂肪組織:脂肪を燃焼して熱を産生することを主な役割とする組織。交感神経の刺激により活性化される。
注2)IL-6(インターロイキン6):炎症反応などに関わるサイトカインの一種。サイトカインは細胞同士が情報をやり取りするために分泌するタンパク質のことで、関節リウマチの病態にも重要である。
注3)滑膜線維芽細胞:関節を覆う滑膜に存在する細胞。関節の構造維持だけでなく、炎症の形成にも関与する。
注4)CXCL1:好中球などを炎症部位へ呼び寄せる「ケモカイン」と呼ばれるタンパク質の一つ。
注5)関節リウマチ:免疫系の異常によって主に関節の滑膜に慢性的な炎症が起こる自己免疫疾患。
注6)β3アドレナリン受容体:交感神経から放出されるカテコールアミンの刺激を受け取る受容体の一種。
■論文情報
タイトル:Fibroblast-like synoviocytes exacerbate autoimmune arthritis upon psychological stress in an IL-6-dependent manner
著者:Jun Tamura, Shigeru Tanaka, Keishi Etori, Daisuke Hashiba, Shuhei Kameda, Atsuko Tomikawa, Ryo Kikuchi, Tatsuro Takahashi, Aiko Saku, Hirotoshi Kawashima, Junichi Nakamura, Seiji Ohtori, Shin-Ichiro Kagami, Koichi Hirose, and Hiroshi Nakajima
雑誌名:Science Advances
DOI:10.1126/sciadv.aec9257
■研究プロジェクトについて
本研究は、以下の支援によって実施されました。
・日本学術振興会科学研究費助成事業 JSPS KAKENHI(23K07890)
・科学技術振興機構(JST)ムーンショット型研究開発事業(JPMJMS2025)
・日本医療研究開発機構(AMED)SCARDA(ワクチン開発のための世界トップレベル研究開発拠点の形成事業 ワクチン開発のための世界トップレベル研究開発拠点群 千葉シナジーキャンパス)